Our Beach Life
波のリズムに心を寄せる、アートと海のライフストーリー

そっと耳をすませば、波の音が聞こえてきそう。そんな静かな力強さを感じる作品を生み出しているのが、画家の尾潟 糧天(おがた りょうてん)さん。

彼が波を描くとき、それはまるで呼吸を整えるような、瞑想のような行為に見える。自然と向き合いながら紡がれるアートと、海とお酒にまつわる記憶。そこに宿る想いを、お伺いしました。

 

尾潟 糧天 ryoten ogata インタビュー

描き始めて、はじめて気づいた“海の引力”

海に惹かれるようになったのって、実は描き始めてからなんです。もともとは美容師を7年くらいやっていて、そこからアートの道に進んで、2年くらいで専業になりました。

最初はいろんなモチーフを描いてたんですけど、あるとき「ひとつのモチーフに絞った方が、もっと深く掘れるな」って思って。その時に自然と選んだのが“海”だったんですよね。

北海道の自然に囲まれた環境で育ったっていうのもあると思うんですけど、今思うと、ほとんど直感だった気がします。デジタルで描いたり、砂を使ったり…表現方法はいろいろ試してきたけど、どれも海が軸になってます。

 

尾潟 糧天 ryoten ogata

美しさの裏にある、海へのこわさ

北海道の内陸出身で、海ってあまり身近じゃなかったんです。オホーツク海も近いけど、年に数回行く程度で。子どもの頃は、興味はあるけど「こわいな」って感覚が強かったですね。海に入って足がつかなくなるだけで、ドキドキしてしまって。

森で遊ぶのとは全然違って、音とか空気感もすごく非日常に感じたんです。今でもその感覚はどこかにあって、作品を通して向き合ってはいるけど、海との“距離感”はずっと残ってる気がします。

自然に対して僕が大切にしてるのが、「畏怖の念」です。
自然って、ただ美しいだけじゃなくて、簡単に人を圧倒してしまう怖さもある。だからこそ、表だけじゃなくて裏の側面にもちゃんと目を向けたいと思ってます。

そして、一方向からじゃなくて、いろんな角度から物事を見る。そうすることで、世界がより奥行きを持って感じられる。それは、海からもらった大きな気づきですね。

 

尾潟 糧天 ryoten ogata 個展

波を見に行く、ということ

最初の頃はなんとなく行き先を選んでいたので、求めている波に出会えるかどうかは運次第だったんですが、徐々に地形や季節、天候状態との関係性について考え始めて、より研究者的な気質で波を見に行くようになっていきました。

今は撮影に行く前に、けっこう綿密にリサーチするんですよ。風向きとや風速、地形、潮の流れ…全部見てどこがよさそうか考えています。

よく行くのが岬の先端とかで、いわゆる釣り人に「サラシ」(波が磯や壁にぶつかって砕け、真っ白に泡立つ)って言われるような場所。空気と水が混ざって、プランクトンが集まって、そこに魚が来て。自然の連鎖を目の前で感じられるんですよね。

そういうのを見ると、「自分も自然の一部なんだな」って、頭だけでなく心で理解する神聖なひとときだと思います。

 

尾潟 糧天 ryoten ogata 

波を描くことは、瞑想に似ている

制作のときは、まず海に行って、ドローンで波を俯瞰から撮影します。そして、撮った写真にはその場所の座標を入れて、日付や時間もちゃんと記録しておくんです。

作品のタイトルに、そういった座標情報を入れるようにしてて、自分の中でデータを蓄積していってる感じ。最近はもう、研究してるような感覚に近いです。

波を描くときに一番意識してるのは、「主観を入れない」こと。自然にできた波を、写経みたいに無心でなぞっていく。そうすることで、自分の感情はできるだけ排除して、自然そのものを見つめるような姿勢を持つようにしてます。

そうやって描いた作品の前に立ったときに、見る人が波に、自分の記憶や感情を重ねてくれたら、すごく嬉しいです。僕じゃなくて、その人の感覚が際立つような、そんな作品になってほしいって思ってます。

尾潟 糧天 ryoten ogata

3D作品で、海をもっと深く感じるために

昔から液体の動きに興味を引かれていて、その捉えどころの無い力学をもっと深く理解したいとずっと思ってきました。そしてその為には、平面的なX/Y軸だけではなく、立体的な「Z軸」も含めて写しとることが重要だと思いついたことをきっかけに立体的な絵画作品を作り始めました。

また、立体作品は光が当たって影ができて、そこではじめて“完成”する。天気によっても見え方が変わるし、僕の手だけでは完結しないところがすごく好きなんです。

あと、真上から見ると波って意外と黒く見えたりするし、周りが砂か岩かでも全然印象が違う。そういう細かい変化を、自分の感情じゃなくて、ちゃんと自然に従って描くようにしてます。

制作時間が長い分、描くことが日常化してきていて、没頭するというよりは生活の一部としてなるべく肩の力を抜いて自然体でモチーフと向き合っていますね。

 

尾潟 糧天 ryoten ogata 作品

伊豆大島で飲んだ缶ビール

いちばん印象に残ってるお酒の思い出は、友達と伊豆大島に行ったときのこと。夜、海辺で缶ビールを飲んだんですけど、その時間がすごく記憶に残っています。街灯もほとんどなくて、星と波の音だけの世界。ちょっと怖いくらい静かで、でもそれがすごくよかったんです。

外で風を感じながら、お酒を飲むのがけっこう好きなので。お店でもテラス席を選ぶことが多いんですね。

 

お酒がくれる“切り替え”の時間

妻が、日本酒をアメリカに発信する仕事をしてるので、家でも外でもお酒を飲む機会が多いんです。どんな料理にどんなお酒を合わせようか、って考えるのが最近の楽しみです。

職業柄、仕事とプライベートの境目が曖昧になりがちなんですけど、お酒を飲む時間はちゃんとスイッチになるというか。「あぁ、いまは“生活の時間”だな」って気持ちにさせてくれるんですよね。

 

尾潟 糧天 ryoten ogata

SUBRINAを飲んだ感想を教えてください

一口飲んだときの印象が「しっかりしてるのに、重たすぎない」っていう感じで。味わいに芯があるんですけど、どこかやわらかさもあって、すごくバランスがいいなと思いました。

香りがゆっくり開いていく感じも心地よくて、グラスを傾けるたびに表情が変わっていくのが楽しい。すぐに飲みきるんじゃなくて、時間をかけてゆっくり楽しみたくなるようなワインですね。

飲んでる間に空気となじんで、香りも味わいもどんどん深くなっていく。創作に向き合うときの自分のスタンスとも、どこか通じるものを感じました。

 

尾潟 糧天 ryoten ogataと海底熟成ワインSUBRINA

尾潟 糧天 ryoten ogataと海底熟成ワインSUBRINA