Our Beach Life
「食」がつなぐ、人と人のライフストーリー
東京ミッドタウン日比谷に店を構えるフレンチビストロ「モルソー」。その厨房に立ち続けるのが、秋元さくらシェフ。
17年前、目黒で13坪のお店からはじまったこの物語は、食を通じて人を喜ばせたいという一途な想いとともに、ゆっくりと、でも確かに広がってきました。
今回の「our STORY」では、海を渡り、料理の道へと進んだ秋元シェフの原点と、ワインとの出会い、そして自然の恵みを感じる日々について、お話を伺いました。

海を越え、心を揺らした「食」のちから
大学を卒業してからは、航空会社の客室乗務員として、世界中を飛び回っていました。空の上で働きながら、いろんな国の文化や景色、そしてそこで育まれてきた「食」に触れるたび、胸の奥にふつふつと料理への想いがふくらんでいったと思います。
そんなときでした。ある日、自分が作った料理を夫が心から喜んでくれて。そのときの笑顔が忘れられなかったんです。「あぁ、料理ってこんなにも人を幸せにできるんだ」って、心がぐっと揺さぶられました。

サーモンの旨みに、粒立ちのよいクスクスがアクセントとなり、軽やかな食感と奥行きを添えています。瑞々しい桃のソースと、爽やかな酸味のしそのソースがベストマッチな味わい。
思い返せば、実家がスポーツ用品店をやっていたので、家はいつも人が集まる場所でした。そんな環境で育っていたので、大人になっても友達や知り合いを自宅に招いて、私はせっせと料理をふるまう。みんなの会話が弾んで、笑顔が広がっていく。その空気が、たまらなく好きでした。
「料理って、人と人をつなぐんだな」。そう強く感じた私は、気持ちを抑えきれなくなって、思い切って料理の道に飛び込みました。調理師学校に通い、卒業後は新宿の「モンドカフェ」で修業。そして白金の名店「オー・ギャマン・ド・トキオ」で、木下威征シェフのもと本格的に腕を磨かせていただきました。
そして2009年。ワインソムリエでもある夫とともに、「モルソー」をオープンしたんです。あのときの一歩があったから、今の私がある。料理の力を信じてよかったと、心から思います。

まだ知らない“マリアージュ”に出会ってほしい
イタリアの“マンマ”が作るような、大皿をみんなで囲んで、分け合いながら笑い合う。そんな料理にずっと憧れてきました。
だからこそ、私が届けたいのは、日本の四季の彩りや、女性らしい繊細な感情を大切にした、自然とワインが飲みたくなるビストロ料理なんです。
お客様は40〜60代の方が多いのですが、最近は若い世代で「お酒をあまり飲まない」という方も増えてきました。でもワインに少しでも興味があるという方には、料理とワインのマリアージュを通じて、“まだ知らなかった美味しさ”に出会ってほしい。
香ばしくポワレした鮮魚に、エビの出汁をきかせたスープを合わせた一皿。やわらかな白身魚の繊細な味わいに、濃厚な旨みをまとったスープが寄り添い、素材の持ち味をより一層引き立てます。
『ほら、こんなにおいしいでしょ?』そうやって新しい味覚の扉を、私の料理とお店がセレクトしたワインで開いてくださる瞬間に立ち会えることが、私にとっては何よりの喜びなのかもしれません。
ありがたいことに、モルソーには何度も足を運んでくださるお客様がたくさんいます。だからこそ、毎回ワクワクしていただけるように、メニューは毎月変えているんです。
前菜も、付け合わせも、ソースひとつに至るまで、そこに“季節の風”を吹き込むように意識しています。たとえばオムレツのソースも、春にはしらすで軽やかに、冬には牡蠣で濃厚に。移ろいゆく季節の表情を、ひと皿ひと皿に映し出すように。
粗挽き肉ならではの力強い食感と、噛むほどにあふれるジューシーな旨みを楽しめるハンバーグ。芳醇な香りと奥行きをもたらすトリュフソースが濃厚に絡み合い、赤ワインとのマリアージュを存分に堪能できる。
そして、モルソーの看板メニューとして親しまれているのは、素材の旨みをまっすぐに活かしたハンバーグ。しっかりとした肉の存在感に、チーズのまろやかさが寄り添う。世代を超えて愛され続けている理由を、一口で感じていただけると思います。
料理が、人をつなぎ、季節を伝え、まだ知らない美味しさと出会わせてくれる。そんな瞬間のために、私は今日も厨房に立っています。
ワインがもたらす、最高の“タイミング”
モルソーのワインは、すべてソムリエである夫が選んでくれています。私の料理に寄り添い、ベストマッチを提案してくれる、まさに頼もしい存在なんです。

何度も私の料理を食べてきた人だからこそ、言葉にしなくても伝わるものがあるんですよね。
「この味は前よりも香りが広がっているから、今日はこのワインにしよう」。そんなふうに、塩分や風味のわずかな変化まで、機微に感じ取ってくれていると思います。
だから、私自身もいつも楽しみ。どんなワインを合わせてくれるのか、その瞬間にどんな“化学反応”が生まれるのか。料理とワインが重なり合う、その奇跡のタイミングを紡いでいけることが、何よりの幸せだと思っています。

お酒がつなぐ、人の縁と心の温度
お酒って、本当に不思議な力があると思うんです。最初はただの“隣の人”だったのに、グラスを傾けながら自然と会話が生まれて、気づけば仕事につながったり、気の合う友人になっていたり。そこには、目に見えないけれど確かに“温度”があって、人の心をやわらかくほぐしてくれるんですよね。
外で飲むときは、そんなふうに人と人との縁を結んでくれる。
でもお酒の魅力って、それだけじゃないと思うんです。それに、自分自身をそっと労ってくれる力もある。

Photo:秋元さくらシェフご提供
たとえば仕事終わりにビールを一杯。「今日も一日、よく頑張ったな」って、自分に小さく声をかけるような、ご褒美のひとときです。グラスを口に運んだ瞬間、すっと肩の力が抜けて、緊張で張りつめていた心が、ふわっとほどけていく。
料理人って、いつもずっと気を張っている仕事だからこそ、この小さな一杯が、心をリセットしてくれる。私にとってお酒は、誰かと縁を繋げてくれる存在であり、自分自身を解き放ってくれる“やさしい時間”そのものなんです。

SUBRINAを飲んだご感想
SUBRINAは、ボトルを開けた瞬間に、ふんわりと赤い果実のやさしい香りが広がって…時間が経つにつれて、スパイスやハーブのようなニュアンスも少しずつ感じられてくる、とても魅力的なワインでした。果実味はしっかりあるのに、タンニンはとてもきめ細かくて、余韻には自然な酸がすっと残って、なんだか上品な印象がありますね。
お料理との相性でいうと、モルソーのメニューの中だと、鴨や豚のローストのような、香ばしさとほんのり甘みのあるお肉料理と、とてもよく合うなと感じます。果実味が豊かな赤ワインなので、ソースはあまり重くしすぎず、軽やかに仕上げると、このワインの繊細な酸ともきれいに調和してくれると思いますよ。
